Cultureカルチャー

2025年9月30日

Frescobaldi ~トスカーナ州 ~

イタリア中部に位置するトスカーナ州は、世界で最も広く知られたイタリアの地域のひとつです。絵画のように美しい風景や豊かな食文化で名高く、その名を耳にすれば、なだらかな丘陵、歴史を感じる町並み、そして一面に広がるブドウ畑が思い浮かびます。

しかし、トスカーナの魅力はそれだけにとどまりません。まだ知られざる宝物が数多く存在し、伝統や芸術を受け継ぐ小さな町や自然の風景が広がっています。この土地では、ワインと美食がその魅力を体現し、訪れる人々を惹きつけてやみません。

▲ トスカーナ州の景色

素朴でありながらも奥深い味わいを持つトスカーナ料理は、何世紀にもわたり受け継がれてきました。代表的な料理のひとつが「リボッリータ」。野菜と固くなったパンを煮込んだこのスープは、古くから農民に親しまれ、トスカーナの食文化の原点を物語っています。

もうひとつ欠かせないのが「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」です。ジューシーなキアニーナ種の牛肉を炭火で豪快に焼き上げる伝統料理で、家族や仲間とともに楽しむ食卓を象徴しています。

デザートには、17世紀頃に生まれたアーモンド入りの固焼きビスケット「カントゥッチ」があります。甘口ワインのヴィンサントと合わせて楽しまれたりもします。

料理から風景まで、トスカーナの至るところにその歴史が息づいています。フィレンツェ北東のアペニン山脈近く、標高の高い山間に「トスカーナの秘宝」と呼ばれる小さな地域“ポミーノ”があります。

穏やかな丘陵、涼しく風通しの良い気候、多様な土壌に恵まれたポミーノは、芳香豊かでエレガントなブドウを育む理想的な環境を備えています。そのワイン造りの歴史は中世にまでさかのぼり、修道士たちが最初にブドウを植えたことが始まりでした。

1716年、トスカーナ大公コジモ3世は世界で初めて、現在の原産地呼称制度の原型ともいえる“ワイン銘醸地”の境界を定めました。保護対象となったのは、キアンティ、カルミニャーノ、ヴァル・ダルノ・ディ・ソープラ、そしてポミーノ。この頃からすでに、ポミーノは優れた産地として認められていたのです。

▲ ポミーノ・エステート

この背景のなかで、イタリア屈指の名門であるフレスコバルディ侯爵家が登場します。

フレスコバルディ家とポミーノの結びつきは19世紀半ばに始まります。祖先のヴィットリオ・デリ・アルビツィ氏は、影響力あるフィレンツェの名門アルビツィ家の出身でした。しかし政争によりメディチ家にフィレンツェを追われ、一族はマルセイユ、そしてブルゴーニュへと移住します。ブルゴーニュでヴィットリオ氏と姉レオーニア氏はブドウ栽培技術を学び、研究を重ねました。

やがて二人はトスカーナに戻り、ポミーノに新風をもたらします。フランスから持ち込んだシャルドネやピノ・ノワールをイタリアで初めて本格的に栽培し、その成果として誕生した「ポミーノ・シャルドネ(当時は“ポミーノ・シャブリ”と呼ばれていました)」は、1878年のパリ万国博覧会で金メダルを獲得しました。

さらにレオーニア氏は、世界初のグラヴィティ方式セラーを設計・完成させ、ポミーノ発展の礎を築きました。

▲ポミーノ・エステートのワイン(Photo by Susumu Yoshioka)
▲ポミーノ・ベネフィツィオ・リゼルヴァ(Photo by Susumu Yoshioka)

1世紀以上を経た1973年、29代目当主ヴィットリオ・フレスコバルディ氏は、最新の知識と技術を導入し、イタリア初のバリック熟成白ワイン「ポミーノ・ベネフィツィオ・リゼルヴァ」を誕生させます。

▲ステファノ・ベニーニ氏 (Photo by Susumu Yoshioka)

フレスコバルディ家は、7世紀以上にわたりトスカーナの地で歴史を築いてきた名門ワイナリーです。その理念は明確で、各地の多様なテロワールの個性を情熱と責任をもって世界に伝えることにあります。“Cultivating Tuscany’s Diversity(トスカーナの多様性を育む)”という言葉にその精神が凝縮されています。

ポミーノ・ベネフィツィオ・リゼルヴァの50周年は、象徴的なワインを祝うだけでなく、伝統と革新を重んじるフレスコバルディ家の姿勢を改めて示すものです。「ベネフィツィオ」を味わうことは、その土地の豊かな歴史と文化を旅すること。ひと口ごとに、700年以上にわたるフレスコバルディ家の情熱と物語を感じ取ることができるでしょう。

※本記事は2025年9月に執筆されたものです。


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