Cultureカルチャー

2023年12月19日

Frescobaldi ~トスカーナ州 ~

今年も皆さまと、イタリアワインを通じて色々なお話をしてまいりましたが、いよいよ12月、1年で最後の月がやってきました。

今年はどんな一年でしたか?

色んなことがあったかと思いますが、12月を迎え、笑顔で健康で一年を振り返ることができるのでしたら、それは総じて良い一年だった、と言えると思います。

さて、今年もイタリア各地から、色々な素晴らしいワインをご紹介してきましたが、一年の最後を締めくくるのは、やっぱりFESTIVEな雰囲気を盛り上げるステキなスパークリングなんていかがでしょうか。

美味しいごちそうを引き立てるスパークリングワインは、この時期のテーブルには欠かせません!
FERRARI社のマキシマム・ブラン・ド・ブラン

イタリアでは色々な品種や製法で、各地でスパークリングワインが造られています。

有名どころと言えば、シャルマ方式で造られるヴェネト州の「プロセッコ」やアスティ方式で造られるピエモンテ州の「アスティ」、エミリア・ロマーニャ州の「ランブルスコ」、そしてメトド・クラッシコ製法(シャンパーニュ方式)で有名なのはロンバルディア州の「フランチャコルタ」やトレンティーノ=アルト・アディジェ州の「トレントDOC」ではないでしょうか。

今日ご紹介するスパークリングワインは、ちょっと珍しいトスカーナ州のスパークリングワインです。

トスカーナ州といえば、イタリアではピエモンテ州と並ぶ卓越したワイン産地で、世界的に有名なイタリアワインが多く生まれる土地であることは、よくご存じかと思います。

サンジョヴェーゼから造られる、キアンティやモンタルチーノの赤ワインが有名ですが、実はトスカーナの山奥にひっそりと、素晴らしい白ワインの産地があることはご存じでしょうか?

それは、フィレンツェの北東部、車で40分ほど山を登り、背の高い針葉樹林の森を越えた先に広がっています。「ポミーノ Pomino」という白ワインの銘醸地です。

ポミーノはトスカーナの秘宝ともいえる素晴らしいエステートで、標高737mという高地にあり、モミの木や栗の木に囲まれたブドウ畑が広がる、アペニン山脈の険しい森を通過した人のみが出会う、まさにトスカーナの隠れた宝石ともいえる美しいところです。

ポミーノの畑
オルネッライア、マセート、ルーチェなども手掛ける偉大な生産者

ここでワイン造りを行うのは、トスカーナの名門ワイナリー「フレスコバルディ FRESCOBALDI」です。家族の歴史はフィレンツェの街と共に1000年以上遡ることができ、ワイン造りは700年以上行っているという、イタリアを代表する世界的ワイナリーです。

ポミーノでのワイン造りの歴史は、16世紀にはじまりました。

1716年にトスカーナ大公コジモ3世が、世界に先駆けて秀逸なワインの生産地の境界を定め、原産地の保護を行いました。これは現在の原産地呼称の礎となる概念で、そこで定められた4つの産地がすなわちカルミニャーノ、キアンティ、ポミーノ、ヴァル・ダルノ・ディ・ソプラでした。そう、ポミーノは当時から既に、卓越したワイン産地として知られていたのです。

コジモ3世と世界初となる原産地保護の勅令。「ポミーノ」の文字も。
レオーニア女史による、世界初のグラヴィティ方式のたワイナリーの設計図

そして1800年代半ば、ポミーノにおけるワイン造りは、アンジョロ・フレスコバルディの妻であるレオーニア・デリ・アルビッツィによって大革新がもたらされました。

ブルゴーニュ生まれのレオーニア女史は、1855年に標高700mというこの高地にシャルドネやピノ・ネロのような、当時は一般的でなかったブドウ品種をもたらし、グラヴィティ方式(重力を利用)のワイナリーを作った、大胆でチャレンジ精神旺盛な女性でした。そして彼女の勇敢さのお陰で、1878年のパリ万博において金賞を受賞したように、ポミーノのワインは世界的に認知されるようになりました。それ以降ずっと、ポミーノではエレガントで洗練され、卓越したミネラル感のあるワインが造られ続けています(1983年にポミーノのワインは独自のDOCを与えられました)。

ポミーノ”という格付のワインは、フレスコバルディによってのみ造られていますが、厳密に言うと、フレスコバルディと、ほんの少しだけ地元の教会が”ポミーノ”と名の付くワインを造っています。フレスコバルディ家はその地元の教会の土地を借りてブドウを栽培しており、借地代としてお金を払うのではなく代わりにワインを奉納しています。ここで造られる最高品質のシャルドネのワイン、”ポミーノ・ベネフィッツィオ・リゼルヴァ Pomino Benefizio Riserva”は“教会からの恩恵”という意味が込められており、毎年ヴァチカンにも奉納されています。

イタリアのTOPシャルドネ10本に数えられるポミーノ・ベネフィツィオ・リゼルヴァ。白ワインでリゼルヴァの格付があるのは珍しいこと。
上品で愛らしい姿のポミーノ城

赤ワインで有名なトスカーナですが、素晴らしい白の銘醸地として知られるポミーノ城は、実はフレスコバルディ家にはウエディングギフトとしてやってきたお城なのです。

19世紀半ば、フィレンツェの名家フレスコバルディ家には未婚の男子が一人いました。そして、メディチ家と拮抗する程の強大な権力を持ったフィレンツェのもう一つの名家アルピツィ家には未婚の女子が一人いました。この女子こそが「レオーニア・デリ・アルビツィ」です。レオーニアが他の街の人と結婚してしまうと、アルビツィ家の莫大な富は、フィレンツェから流出してしまいます。それを避け、フィレンツェの街に資産を留めておくために、1877年、レオ―ニアはフレスコバルディ家のアンジョロと政略結婚させられます。

この時に、アルビツィ家所有のポミーノ城とニポッツァーノ城が、結婚の贈り物として新婦レオーニアの家族からフレスコバルディ家に贈られました。しかし、このフレスコバルディ家の夫は一説によると浮気症だったそうで、レオーニアは夫とフィレンツェに住むことを拒み、生涯ボミーノ城でワイン造りに情熱を注ぎ暮らしたそうです。

1371年に建てられたという荘厳なニポッツァーノ城
レオーニア・ポミーノ・ブリュット

トスカーナにシャルドネを持ちこみ、フレスコバルディ家の運命を変えた、革新的で勇敢だった彼女の功績を称えるために、彼女の子孫でありフレスコバルディの現当主であるランベルト・フレスコバルディ氏がワインを造りました。それが、彼女のように非常にエレガントかつ革新的なスパークリングワイン“レオーニア・ポミーノ・ブリュット”なのです。

ちなみに、アルビッツィ家は繊維業で財をなした家系であり、エレガントなエチケットが特徴的なポミーノのワインも、それに由来しています。下部の丸いくるくるした部分は、糸巻きを意味しているそうです。

ポミーノ・エステートのロゴになっているアルビツィ家の家紋
エレガントさと飲み心地の良さが人気のポミーノ・ビアンコ

現在のポミーノ・ビアンコのエチケットは、透明のラベルに印刷され貼り付けられていますが、かつては手編みのレースをワインに使用していたそうです。筒状に編まれたレースをボトルに下から被せ、手でヴィンテージを記入し、そして飲み終わったらまたレースを洗い、ヴィンテージを消し、レースもボトルも再利用して使っていたそうです。

また、ニポッツァーノ城で造られるワインも、かつてアルビツィ家がこのお城を所有していたことを後世に残すため、今でもアルビツィ家の家紋が使われています。ワインのエチケットをひとつとっても、長い歴史を知ることのできるのは、さすが1000年の歴史を誇るフレスコバルディ家ですね。

ニポッツァーノ城で造られるワインエチケットに見られるアルビツィ家の家紋

シニョーリア広場のヴェッキオ宮殿前に飾られたポミーノのモミの木

さて、舞台は変わりまして、フレスコバルディ家の本拠地、フィレンツェに移りましょう。

この時期、フィレンツェの象徴的な広場でもあるシニョーリア広場には、大きなクリスマスツリーが飾られます。

フレスコバルディ家が家族の伝統として、この時期毎年使うクリスマスツリーはポミーノからやってきますが、時にフレスコバルディ家は、家族用だけではなくフィレンツェの住人と世界中からの観光客のため、フィレンツェの中心にあるこの広場に、ポミーノのクリスマスツリーを寄付したりもします。こちらは2017年の写真ですが、とっても美しいですね!

シャルドネとピノ・ノワールをブレンドした“レオ―ニア・ポミーノ・ブリュット”は、ポミーノのテロワールの特徴である類稀なるエレガンスとミネラル感、フェミニンで官能的なスタイルを完璧に表現しています。

明るい黄金色の色調には無数のゴールドのきらめきがあり、真珠のように細かく立ち昇るペルラージュ(泡)は繊細で豊かです。香りは華やかで、瓶内での長期熟成に由来するブリオッシュのようなイースト香、それが次第にハチミツやドライアプリコットを想わせる、より開いた香りへと移り変わっていきます。非常にバランスの取れた酸、そして心地よく長く続く余韻があります。クリーミーなテクスチャーと、確固としたストラクチャーが、“レオーニア”をワイン単体で楽しむためだけではなく、いろいろな料理を受け止め寄り添うことのできるワインとして仕立て上げています。

とても高貴でエレガントなワインですので、繊細な味わいの前菜類や、魚、白身のお肉、中程度に熟成したチーズなどの前菜に良く合いますが、よりしっかりした料理にも合う個性を持っています。

ミネラル豊かな“レオーニア”は、牡蠣やキャビアと相性抜群!

たくさんの美しいライトがキラキラ輝くこの季節。

グラスの中で、繊細な泡が立ち上がる“レオーニア”で、今年も一年頑張った自分を労ってはいかがでしょうか?

※本記事は2023年12月に執筆されたものです。


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