Cultureカルチャー
2023年4月21日
Campo alle Comete ~トスカーナ州~
毎年4月は世界最大のイタリアワインの展示会「VINITALY(ヴィニタリー)」がヴェネト州ヴェローナで開催されます。
イタリア中から生産者が集まり、世界中からレストラン関係者、ジャーナリスト、バイヤー、インポーター、エデュケーター、ワインラヴァーが集う、それはそれは大きなイタリアワインの祭典です。よって、ヴェローナはシェークスピアの「ロミオとジュリエット」の舞台として有名ですが、“イタリアワインの首都”としても有名なのです。今回はそのVINITALYに行った帰りに訪問した、素晴らしいワイナリーについてお話したいと思います。

「場所はトスカーナ州のボルゲリにあります。
“ボルゲリ”と聞くと、ワインに詳しい方ならすぐにいくつかの世界的に有名な銘柄を思い浮かべることでしょう。
それもそのはず、ボルゲリはイタリアを代表する銘醸地の1つであり、現在ではイタリアで最も地価の高いワイン産地としても有名です。
この地で造られている有名ワインと言えば、テヌータ・サン・グイド社のサッシカイアやフレスコバルディ社のオルネッライアやマッセートをなど、ワイン好きなら聞いたことがある名前がたくさん登場する産地です。


このトスカーナ州ボルゲリとはどこにあるかと言いますと、トスカーナの海沿い中央付近に位置する、縦に約17kmというとても小さなエリアです。トスカーナの黒ブドウ品種の王様といえばもちろん「サンジョヴェーゼ」で、キアンティ・クラッシコやブルネッロ・ディ・モンタルチーノなど、有名なワインは基本的に「サンジョヴェーゼ」で造られていますが、このボルゲリの特異な点は、なんとトスカーナにありながらサンジョヴェーゼがあまり良く育たない点にあります。それはボルゲリの土壌に秘密があるのです。
ボルゲリの土壌は肥沃なため、サンジョヴェーゼには適さず、ここでは全体の生産量のうち、わずか2%を占めるのみ。しかし、フランスのボルドーに似た環境のため、いわゆるボルドー品種は非常に良いものが育つ環境で、ボルゲリで生産される有名なワインの多くがボルドー品種で造られているのはそのような理由があるのです。(サンジョヴェーゼは、良く育つにはより過酷な環境で苦しんだほうが良いものが出来るそうで、サンジョヴェーゼにとって、ボルゲリは暑すぎて、成熟が早く進みすぎるので、十分なポリフェノールが育つ前に収穫となり、とても軽く味気のないものが収穫されるそうなのです。)また、沿岸で良く育つヴェルメンティーノが白ブドウの代表格ですが、稼ぎ頭は赤ワインのボルゲリ地区のため、生産量の90%は赤ワインだそうです。
また、品質管理も非常に厳しく徹底されており、既存のボルゲリ全体の生産者と、そのワインの質、ブランド力を保つため、ボルゲリDOC協会は、ボルゲリのエリア内だとしても、2004年以降に新しく作った畑にはボルゲリDOCの格付は与えず、トスカーナIGTの格付となります(高い品質が認められた場合の例外あり)。さもなければ、あらゆる人が高級ワインの産地として有名なボルゲリにやってきて、ボルゲリDOCを名乗るワインを造り、その結果バラバラの品質のワインが誕生し、今ある世界的に非常に評価の高いボルゲリDOCの名声を失墜させかねないからです。
さて、わたしが今回訪問したのは、ここボルゲリに突如現れたマジカルなワイナリー「Campo alle Comete カンポ・アッレ・コメーテ」です。
このワイナリーが非常に注目を集めているのにはいくつか理由があります。
1つは、非常に入手困難なこのボルゲリの土地で、2016年から進出したにも関わらず、ボルゲリの大地主の貴族デッラ・ゲラルデスカ家の信頼を勝ち取り、現在ではボルゲリにおける所有面積第6位を占めるほどに、土地を使用できていること(これは多くの生産者が望んでも不可能なことなのです)。2つ目はなんと南イタリアから進出してきたワイナリーであること。(イタリアは南北の経済格差がいまだ大きく、南イタリアの生産者が、北上しイタリアワイン界でも最も地価の高いボルゲリに進出したことは衝撃的なニュースでした!)そして3つ目は、ボルゲリの他の生産者の伝統的なラベルとは異なる、ファンタジー溢れるエチケットをまとったワインであることです。

「カンポ・アッレ・コメーテ(彗星が降り注ぐ場所)」とは、歴史学書に記載されている、古くから存在するこのワイナリーの実際の地名です。広く開けた土地で、今でも夏にはたくさんの星が、まるで降り注ぐかのように見えるところだそうです。時を経て、いつしか地元の地図からはその名前が消滅してしまったそうですが、とても好奇心をくすぐられ、想像力をかき立てられるこの名前にすっかり魅了され、この名前をワイナリーに付けたのだそうです。
南イタリアを代表する世界的ワイナリー、フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ社がカンパーニア州イルピーニアで培ったノウハウと、ボルゲリの歴史ある唯一無二のテロワールを従えた革新的な思想があってこそ生まれた一大プロジェクトなのです!

わたしが滞在していたフィレンツェのホテルに早朝から迎えに来てくださったのは、CEOで醸造家のルチア・ミノッジョさんです。ボルゲリまでの1時間半のドライブの間に、色々なお話を伺いました。
ルチアさんは代々ピエモンテ州のブドウ栽培農家のご出身で、お母様の代からワイン造りも始めたそうです。しかし、ルチアさんはそんなお母様を見ながら「わたしは絶対にワインの醸造家なんてなりたくない!」と思っており、小さいころからダンスに夢中で、ダンスカンパニーに属するほどの本気のダンサーだったそうです。しかし、理数系が得意であったことから、気づけばワイン学校で勉強しており、そして授業終わりにみんなでワインを飲みながらワインについて色々語るアペリティーヴォがとても楽しく、こんな世界があったのか!と、どんどんとワインに情熱を傾けることになったそうです。(ダンサーだった時は、コンディションに影響するのでお酒は飲まなかったそうです!)
卒業後ニュージーランドで最初の収穫を経験し、そこで出会ったカリフォルニアの生産者の元で修行し、そこから南仏でさらに経験を積んだところで、トスカーナの超有名生産者「フレスコバルディ社」に採用され、同社のフラッグシップのエステートである“ニポッツァーノ”の醸造責任者に抜擢され、世界110か国で愛されるワインを手掛けていました。
そこからまた縁があり、南イタリアの最大手ワイナリー「フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ社」のオーナー、アントニオ・カパルド氏に情熱と才能を高く評価され、このフェウディ・ディ・サン・グレゴリオ社の壮大なプロジェクト、「カンポ・アッレ・コメーテ」を託されたそうです。
現在は醸造もしつつ、CEOとしての仕事もこなすという大忙しのルチアさんですが、常に主観的になりすぎないよう、第三者からの意見も大切にしており、外部のコンサルタントとも仕事をしているそうです。自分が大切に育てたブドウですべてを把握しながら造るワインへの思い入れはやはり強く、いまだにコンサルタントとのミーティングを終え、非常に厳しい助言を受けると、「一人で密かに涙することがあるんです。でも、そういう客観的なアドバイスはとても大切。自分の赤ちゃんのように大切に手掛けたワインだから、自分だけだと気づけないことがたくさんあるので。」と、より良い自分、より良いワインを造るために努力を怠らないルチアさんの言葉に非常に胸を打たれました。彼女のワインへの大いなる情熱と献身と愛を感じ、早くルチアさんと一緒にルチアさんの造ったワインをテイスティングしたい!と思ったものです。

さて、エステートに到着しました。
一番初めに案内されたのは、ボルゲリでも最も標高の高い畑の1つである、標高240mの畑です。美しい海が見渡せるところで、ゴルゴーナ島を望むことができました!(イタリア版アルカトラズ島のようなところです。)
「このブルーが、カンポ・アッレ・コメーテの色なんです」とルチアさん。確かに!ロゴのブルーはこのトスカーナの海と空の色だったのか!と実感できました。
ボルゲリがいかに海風が非常に心地よい場所で、日照が豊かであるかということを、全身で感じられました。
ワイナリーに到着しました。


テイスティングルームなどがあるヴィッラと、“魔法が起こる場所”である醸造所は、緑のトンネルで繋がっています。現実世界と魔法の世界を繋ぐこのトンネルは、くぐる人を特別な気持ちにさせてくれます。
星空のようなセラーでは、ワインが静かに眠っていました。


一通りワイナリーを案内していただき、いよいよテイスティングです!
カンポ・アッレ・コメーテでは、白2種類、ロゼ1種類、赤2種類の現在5種類のワインが造られています。
今回ご紹介したいのは、カンポ・アッレ・コメーテのフラッグシップワインであるボルゲリ・ロッソ“ストゥポーレ”です。
品種はトスカーナの土着品種ではなく、メルロー、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルドーから造られています。深みのあるヴァイオレットカラー、甘く香るローストしたカカオ、フレッシュなプラムやチェリー、ユーカリ、メンソールなどのハーブ、地中海らしさを感じさせる豊かな香り。果実味が印象的で、丸みのあるタンニン、柔らかなバランスの取れた味わい。海由来のミネラルを備えた、芳しいアロマと長い余韻、重すぎず強すぎない、心地良い後味が魅力です。
名前にある「ストゥポーレStupore」とは、「サプライズ」とは違う、非日常の特別な“驚き”を意味しています。


ボルゲリの有名なワインが、リリースしたてはまだ硬くて樽の強さが残り、数年後、十数年後に飲むのに相応しい、と言われることがあるのに対して(といっても、個人の好みなので評価は様々ですが!)、非常にしっかりとした凝縮感がありながら、タンニンは非常に穏やかでスムース、今飲んでも美味しいですし、まだまだ熟成のポテンシャルも感じる今後もとても楽しみなワインで、優しく柔らかな、テロワールの特徴もしっかりと感じる素晴らしいワインです。
今はまだ、著名なボルゲリのワインと比べると知名度は劣りますが、数年後にはきっと、多くの人に知られるボルゲリを代表するワインの1つに数えられることでしょう。
このワインを手がけた本人のワインへの熱い想いと愛情をたっぷりの解説を目の前で聞きながら、一緒に現地でテイスティングさせていただけるとは、なんと贅沢な時間だったことでしょうか。また今回は、ドライブ中にルチアさんの人生についてもたくさんお話を伺ったということもあり、彼女の素敵な人間性と情熱に触れることができたことも、本当に貴重な経験でした。率直に色々なことをお話しくださったルチアさんに心から感謝するとともに、まだまだ年長男性の権力の強いイタリアワイン業界での、彼女の今後のますますのご活躍を応援したくなりました。

ワイナリーを去る頃には、すっかりルチアさんとルチアさんの造るカンポ・アッレ・コメーテのワインの大ファンになっていました。
是非以下のリンクより、動画でボルゲリのテロワールを感じていただければ幸いです。そして、たくさんの方に、このワインを飲んでいただけますように!
動画はコチラから
※本記事は2023年4月に執筆されたものです