Cultureカルチャー
2026年6月19日
世界を魅了した一杯の裏側へ――「Barista Challenge 2026 by LAVAZZA」現地レポート
2026年4月、イタリア・トリノで開催された「Barista Challenge 2026 by LAVAZZA」。世界20カ国から集まった精鋭たちが、その腕前と感性を競い合うこの舞台で、初の日本代表として参戦した鈴木博人バリスタが、世界3位という輝かしい成績をおさめました。伝統と革新が交差する街で、彼がいかにして世界のジャッジを魅了したのか。そのドラマチックな4日間の軌跡を、現地の空気感と共にお届けします。


1. 聖地トリノで触れる、コーヒーの真髄
イタリアの北部に位置するトリノ。ここは、世界的なコーヒーブランド「LAVAZZA(ラバッツァ)」が産声を上げた場所です。大会の幕開けと共に、バリスタたちはまずラバッツァの心臓部へと招かれました。そこにあったのは、単なる工場という概念を超えた、五感に訴えかけるような洗練された空間です。
最新鋭の焙煎設備が整然と並び、芳醇な香りが立ち込めるなか、選手たちは最高峰のコーヒー豆「1895シリーズ」の試飲やミュージアムの見学を通して、イタリアンエスプレッソの歴史と矜持を肌で感じていきました。空間づくりから什器一つひとつに至るまでの徹底したこだわりは、参加したすべてのバリスタに深い感銘を与え、これから始まる戦いへの期待を静かに高めていきました。


2.予期せぬ困難、試される「バリスタの真価」
しかし、世界大会の舞台は決して平坦な道ではありません。2日目から始まった本戦では、イタリアならではの「洗練された自由さ」が選手たちを翻弄しました。本番前の準備時間中であるにもかかわらず、共有備品を次の競技者が持ち去ってしまったり、規定の準備時間が直前で短縮されたりと、予測不能な事態が次々と巻き起こります。
こんな思わぬアクシデントにも、鈴木バリスタは終始落ち着いた様子でした。慣れない英語でのプレゼンテーションというハードルはありながらも、積み重ねてきた練習がしっかりと支えになっていたようです。予期せぬ事態にも柔軟に対応し、どこか楽しんでいるようにも感じられる姿が印象的でした。技術力だけでなく、現場での対応力や余裕も含めて、プロフェッショナルとしての魅力が伝わってきます。

3. 15分間に込められた、世界を驚かせる「体験設計」
この大会の特徴は、抽出技術だけでなく、一杯のコーヒーをどのような「体験」として伝えるかが問われる点にあります。競技時間は15分。その中で、4杯のエスプレッソと各バリスタが考案した4杯のシグネチャードリンクを提供しながら、プレゼンテーションを行います。
エスプレッソは、抽出温度や抽出時間(粉の細かさ)、仕上がりの量を調整し、豆の個性を引き出すよう、バリスタの細心のコントロールによって仕上げられます。豆ごとの特徴に応じて抽出のアプローチを変える判断力も含めて、バリスタの技術が問われるポイントです。一方で、後半に登場するシグネチャードリンクは、バリスタそれぞれの発想やストーリーがより色濃く表れるパートで、見どころのひとつになっています。
鈴木バリスタが選んだ豆は、ラバッツァの「テイルズ・オブ・イタリア」シリーズから「キャナルグランデ ヴェネツィア」。アラビカ種とロブスタ種を組み合わせたブレンドで、特に“発酵ロブスタ”がもたらす複雑な酸味と奥行きが特徴です。この豆を選んだ理由は、ラバッツァが本コレクションで掲げる「イタリアンエスプレッソの伝統を現代的に再解釈する」という思想に強く共感したからだと鈴木バリスタは言います。「伝統的なイタリアンブレンドの骨格を維持しながらも、発酵プロセスによって引き出されたエキゾチックなアロマと丸みのある質感が重なるこのコーヒーこそ、私が表現したいイノベーションを最も体現できると確信しました。(鈴木バリスタ)。」
この豆を軸に、「伝統と革新の融合」というテーマが組み立てられていきました。その表現として取り入れられたのが、日本から持ち込んだ食材です。なかでも核となったのは、20年熟成の黒みりん。これを煮詰めてアルコールを飛ばし、凝縮したエッセンスとして仕上げることで、コーヒーとの新しい組み合わせを引き出しています。さらにヨーグルトや柚子といった発酵や和の要素を重ねることで、「トリプル・ファーメンテーション」というコンセプトを形にしました。

さらに観客の目を釘付けにしたのは、そのプレゼンテーションの美しさです。ドリンクを注ぐのは、繊細なカットが光る江戸切子のグラス。さらにスプーンホルダーとして「うるしの駒や」の漆器を活用し、職人の手仕事による伝統工芸の美しさを添えることで、日本代表としてのアイデンティティと伝統を繋ぐ革新性を視覚的にも表現しました。
シグネチャードリンクについて、鈴木バリスタは次のようにコメントしています。
「20年熟成の黒みりんを60%まで煮詰め、アルコールを飛ばして濃縮したエッセンスを、エスプレッソや自家製のアールグレイ&レーズンシロップと融合させました。
黒みりん由来の黒糖を思わせる深いコクは、シロップの華やかさ、そして柚子とジュニパーベリーを用いたクラリファイドウォーターとみごとに調和しました。この仕上がりは審査員のみならず、観客や他の競技者からも極めて高い評価を受け、発酵ロブスタの持つ複雑な酸味と黒みりんの熟成感が互いを引き立て合う構成には多くの絶賛の声が集まりました。
伝統的なイタリアンコーヒーの面影を残しながらも、全く新しい驚きや体験があるという称賛をいただいたこの一杯が、世界3位という結果を強力に後押しする決め手になったと確信しています。」


4. 競い合いの先にある、温かな絆
競技の様子はTVショーのようにショーアップされ、世界に向けてライブ配信される一方で、会場の空気はどこか和やか。競技を終えたばかりのドリンクを出場者や関係者同士でテイスティングして感想を伝え合うなど、次第にアットホームな雰囲気が広がっていきました。
鈴木バリスタが披露した、ヨーロッパでは馴染みの薄い黒みりんや柚子といった食材、そして美しいバリスタツールの数々。それらが織りなす未知の体験に、他国のバリスタたちも興味津々で質問を投げかけます。コーヒーという共通言語を通じて、言葉の壁を超えたコミュニケーションが広がり、日本文化への関心が深まっていく。それこそが、世界大会という舞台の醍醐味なのかもしれません。
5. 掴み取った栄光と、次なる世代へのバトン
最終的に、鈴木バリスタは総合3位という輝かしい成績をおさめました。さらに、同大会の上位入賞者6名によって競われた、イタリアエスプレッソ協会が主催する「エスプレッソ イタリアーノ チャンピオンシップ(EIC)」の予選となる「EIC LAVAZZA Selection」においても、みごと優勝し、今秋の本戦への出場資格を獲得しました。日本のバリスタが持つ技術の緻密さと、繊細な感性が世界のトップレベルであることを証明した瞬間でした。

日本代表として世界第3位という鮮烈な足跡を残したいま、そのバトンは早くも次なる世代へと繋がれようとしています。次はどんな日本人バリスタが、この刺激的な世界の舞台へと羽ばたき、トリノで待つ仲間たちと出会うのでしょうか。そして、再び世界中から集うバリスタたちが今度はどんな驚きを私たちに届けてくれるのか、今から期待に胸が膨らみます。
日常の何気ないコーヒータイムが、少しだけ特別に感じられるような、そんな心躍る挑戦の続きを、来年もまたここ日本から一緒に見守りたいと思います。

※本記事は2026年4月に作成されたものです。