Cultureカルチャー
2025年7月7日
PLANETA:シチリアマスタークラスレポート
2025年6月8日。大阪・関西万博「イタリア館」のシチリア・ウィーク初日。パビリオン屋上にあるレストラン「イータリー」で、当社主催によるシチリア・ワイン・マスタークラスを実施しました。
シチリアの名門ワイナリー・PLANETA(プラネタ)のオーナー兼醸造責任者であるアレッシオ・プラネタ氏を迎え、2024年のJETCUPチャンピオンであり「大阪・関西万博」イタリアパビリオン公式ワインアンバサダーの山田琢馬氏(株式会社 パレスホテル東京)も来場。
この日、集まったのは関西を拠点に活躍するイタリアワインのプロフェッショナルたち約20名。PLANETAのワインを深く紐解くことができたスペシャルセミナーのレポートです。
シチリア各地の大地が育んだ珠玉の5銘柄をテイスティング

シチリア屈指の名門ワイナリーとして名高いPLANETA(プラネタ)は、シチリアワインの革新と高品質化を牽引してきた重要な存在です。現在は、島内5つのエリアに、合計400ヘクタールのブドウ畑と7つのワイナリーを所有(メンフィ、ヴィットリア、ノート、エトナ、カーポ・ミラッツォ)。また、ワイン造りのみならず、高品質のオリーブオイル造りや、アーモンドの栽培、さらにはブティックホテルを所有しています。ワインツーリズムを通したさまざまな“シチリア体験”は、世界中から訪れるゲストに定評が高いのです。
アレッシオ氏はこう話します。「私どものモットーは、シチリアの多様なテロワールを尊重し、伝統と革新を融合させて、世界に誇れるワインを創造すること。そして、地球環境に配慮した持続可能なワイン造りを通じて、自然や美しい田園風景、そしてシチリアに根付く文化を守ることを大切にしています。シチリアの魅力を世界中に伝え続けることが使命です」。


早速、5つのエリアで造られたプラネタ社のワイン・テイスティングへと移ります。

<ETNA>
- エリア:エトナ Etna
- ワイナリー:フェウド・ディ・メッツォ Feudo di Mezzo
- エトナビアンコ・コントラーダ “タッチョーネ” Etna Bianco Contrada Taccione 2022
- Etna DOC
プラネタ社の「エトナビアンコ・コントラーダ・タッチョーネ 2022」は、シチリア東部・エトナ山南斜面の標高約800mに位置するコントラーダ(優良区画)“タッチョーネ”から生まれた白ワインです。プラネタが2009年より取り組むエトナでの挑戦の中でも、特にテロワールの個性が色濃く表現された単一畑ワインで、「コントラーダ」はブルゴーニュの“クリュ”のような概念です。火山性土壌と昼夜の寒暖差が、土着品種カリカンテに緊張感のある酸とミネラルをもたらします。発酵の大半はステンレスタンクで行い、一部は木樽を使用。2022年は乾燥した気候の影響で、凝縮感と酸のバランスに優れた年となりました。
当主アレッシオ氏の解説に加え、山田氏のテイスティングコメントと料理提案が印象的でした。
山田氏は「しっかりとした色調で、マンダリンや澱由来の香り。空気に触れると酸と塩味が際立つ」と語ります。合わせる料理は「オレンジとリコッタチーズのサラダや、和食であれば柚子を添えたハマグリの蒸し物や椀物、白身の昆布締めなどが相性良好」と提案します。


<MENFI>
- エリア:メンフィ Menfi
- ワイナリー:ウルモ Ulmo
- シャルドネ2023 Chardonnay 2023
- Menfi DOC
「シャルドネ」は、1985年に「世界と戦えるシチリアワインを造る」という夢から生まれた、同社の象徴的な一本です。この挑戦はシチリアワインの評価を一変させ、「シチリア全体の運命を変えたワイン」として称されるまでに。ブドウはメンフィ地区の特別区画、ウルモとマロッコリで栽培され、それぞれの土壌と気候がワインに奥行きと複雑さを与えています。醸造はすべてフレンチバリックで行われ、気品と力強さを併せ持つエレガントなスタイルに仕上がっています。
山田氏は、「トロピカルな第一印象に、樽由来のアカシアの香りが溶け込み、酸とボディのバランスが秀逸。温度が上がっても芯がぶれない」と評価。料理提案としては、シチリアのネジネジ・ロングパスタ“ブジアーテ”のトラパネーゼソースや、豚肩ロースのグリルに柑橘を添える一皿、さらに和食ではエビと湯葉のだしゼリー寄せなどを挙げています。


<VITTORIA>
- エリア:ヴィットリア Vittoria
- ワイナリー:ドリッリ Dorilli
- チェラズオーロ・ディ・ヴィットリア2022 Cerasuolo di Vittoria 2022
- Cerasuolo di Vittoria DOCG
「チェラズオーロ・ディ・ヴィットリア 2022」は、シチリア唯一のDOCG赤ワインであり、2022年ヴィンテージはガンベロ・ロッソ最高賞の「トレ・ビッキエーリ」を受賞した注目の一本です。畑は赤い砂質と石灰岩層からなる独特なテロワールで、ネロ・ダーヴォラとフラッパートを栽培。果実味とエレガンスを併せ持つ味わいを生み出しています。ネロ・ダーヴォラ60%、フラッパート40%を別々に発酵させ、フラッパートの華やかな香りと、ネロ・ダーヴォラのフレッシュさが調和した、親しみやすく洗練されたスタイルが魅力です。
山田氏は、「フラッパートの軽やかさに続き、ネロ・ダーヴォラの骨格が感じられ、ザクロやアセロラ、ハーブの香りも印象的」とコメント。料理については「しなやかなタンニンで料理にも合わせやすく、シチリア名物の鰯とウイキョウのパスタや、ミョウガや大葉を添えたカツオのたたきなどがおすすめですね。夏にはやや冷やして楽しむのが良いでしょう」と提案してくださいました。


<CAPO MILAZZO>
- エリア:カーポ・ミラッツォ Capo Milazzo
- ワイナリー:ラ・バロニア La Baronia
- マメルティーノ 2018 Mamertino 2018
- Mamertino DOC
「マメルティーノ 2018」は、シチリア北部カーポ・ミラッツォ半島にある小規模ワイナリー「ラ・バロニア」で生まれた赤ワインです。この地は古代よりワイン造りの伝統のある紺碧の海に囲まれた美しい土地で、カエサルにも愛されたワインとして「ガリア戦記」(紀元前58年-51年)にも登場します。2011年にルシフェロ財団の協力によりプラネタ社はこの地でワイン造りを開始しました。畑は海に近い標高約40mに位置し、火山灰を含む粘土質の土壌と海風による温度差が特徴です。ネロ・ダーヴォラ60%、希少品種ノチェーラ40%を使用し、発酵・熟成はステンレスタンクと大樽で丁寧に行われます。収益は地域の子供たちを支援する活動にも役立てられています。
「畑が広がる半島カーポ・ミラッツォを想像しながら味わうと、海の香りがしてきそうですね…」と話す山田氏に続き、「確かに、海苔を思わせるヨードっぽいニュアンスを感じますね」と参加者からのコメントも。
「ノチェーラが入ることで、野性的な華やかさを感じます。ローズマリーやレザー、オレンジの皮っぽい印象も。味わいは、しなやか。タンニンは程よく、飲み心地は良いけれど、しっかりと複雑味も感じます。イタリア料理であれば、黒豚のローストにイチジクを使ったソース。和食でしたら、鴨肉の藁焼きなどいかがでしょう?木の芽味噌など日本の和のハーブを合わせてみたいですね」。


<NOTO>
- エリア:ノート Noto
- ワイナリー:ブォニヴィーニ Buonivini
- サンタ・チェチリア Santa Cecilia 2020
- Noto DOC
「サンタ・チェチリア 2020」は、シチリア島最南端ノートの特有のテロワールを活かしたネロ・ダーヴォラ100%の赤ワインです。ヨーロッパでも屈指の少雨地域であるこの地は、石灰質の土壌と地中海からの風が特徴で、ブドウにミネラル感とエレガンスをもたらします。1998年には環境に配慮した「見えないワイナリー」を建設し、自然景観を守る活動も展開。畑はノート南東部の「ブォニヴィーニ」区画に位置し、手摘み・選果後に低温で果皮浸漬、コンクリートタンクで発酵。さらに20%は新樽を用いて熟成され、力強さと洗練さを兼ね備えた一本に仕上がっています。
アレッシオ氏曰く「サンタ・チェチリアは、プラネタ家の本名です(プラネタ・ディ・サンタ・チェチリア)。つまりファミリーの名をつけた、とても大切なワインの一つ」。また、エステート名「ブォニヴィーニ」とは、元々この地の地名で“美味しいワイン”という意味があると言います。「ブドウ畑、アーモンド畑はもちろん、現代アート作品の展示なども。美味しいワインとアートをテーマにしたエステートです」と言って微笑むアレッシオ氏。
その隣でテイスティングを始めた山田氏は、ノートという地域の乾燥した気候がワインに凝縮感を与えているとし、「ブラックベリーやベルガモット、甘くスパイシーな香りが印象的」と語ります。程よいタンニンと余韻の苦味がフルーツの風味を引き立て、樽香も控えめでバランス良好」と語ります。
「ネロ・ダーヴォラを100%とのことで、八角を思わせる甘くスパイシーな香りも。合わせる料理は、例えば八角を使った豚の角煮やトンポーローなど中国料理とも相性が良いと思います。
また、羊の赤ワイン煮込みにペコリーノをたっぷり削った一皿、さらに和食の場合は「うなぎの蒲焼き」の関西風(地焼き)が良いでしょう。皮目のカリッとした香ばしさ、さらには山椒の香りと見事な調和を奏でると思います」。

テイスティングも後半に差し掛かったところで、サプライズ・ゲストが。イタリア館のマスコットキャラクター、イタリアちゃんの登場に、テラス席は華やかな雰囲気に包まれたのでした。



セミナー後はアレッシオ氏を囲んで懇親会が開かれ、参加した料理人やソムリエらから多くの声が寄せられました。
「扱っている生産者に直接会えるのは貴重です」
「万博とイタリア館の見学もでき、文化や歴史を含めイタリアの魅力を再確認できました」
「シチリアの多様なテロワールを、これからもお客様に伝えていきたい」
「アレッシオさんの人柄がワインに表れていて、彼に会うために来ました。海風や料理も含め、シチリアを感じました」
「アレッシオさんとは10年来のご縁があり、9月にシチリアで再会するのが楽しみです」



時間が足りないほど充実したマスタークラスとなりました。
最後にアレッシオ氏は、「大阪・関西万博、しかもシチリア・ウィーク初日にこのセミナーを開催できたことに感動しています。30年来の日本での活動が今日という形になり、日欧商事の皆さんや参加者の皆様に心より感謝します。シチリアの伝統工芸や文化を日本の方に直接ご紹介できたことも大きな喜びです」と語りました。



